甘いもん好きおやじのブログ

日常の面白いことを描きます。

夢枕獏「空手道ビジネスマンクラス練馬支部」を読みました

とにかく面白くて、500ページくらいありますが、2日で読んでしまいました。
500ページといっても、改行が多いので、1ページあたりの文字数は少ないですが。。。
展開がスムーズなので、ストレスなく読めます。

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街でヤクザに絡まれた青年が、バタバタとそのやくざを倒すところを、主人公が目撃するところから物語はスタートします。
無様にやられたヤクザが、主人公と目が合います。
後日、自分たちがやられているところを見ていた主人公のことを覚えていて、因縁をつけてきます。
そこで、主人公が、社会人としての誇りも何もかも、踏みにじられるようにボコられ、土下座を強いられ、その悔しさから空手を始めます。

空手道場には、様々な境遇を抱えた人が修行に来ています。
物語の進行に合わせて、ビジネスマンクラスのメンバーが、なぜ空手をやっているのか、どういう人生を送っているのかといったことが描写されていきます。
そこには、それぞれの空手に対する向き合い方や、人生について書かれていました。

ビジネスマンクラスの指導員となった今江は、自分に空手の才能があるのかないのか、辞めて別の道に進むべきか、不安を抱きながら、それでも空手ばかり考えてしまう生活を送っています。
館長の、秋葉先生に、自分には才能がないのか問いかけますが、それは自分で見極めることだと言われます。
確かに、この先あと少し続けたら、もしかしたら才能が開けるかもしれないし、そういったことは、人が決められることではないと思います。
主人公は、作家なる道をあきらめて、サラリーマンになっています。
過去に、自分の才能をあきらめて、別の道に進んだ主人公ですが、今江や秋葉先生やらビジネスマンクラスの仲間と接していくうちに、再び小説を書くことを決心します。

心理描写がとても、分かりやすく、共感できます。
主人公が、空手に向かう姿勢が、初めは、強くなって暴力の恐怖から逃れるといった負の動機でした。
ですが、空手自体が楽しくなり、自分がこんなに動けるようになったんだとか言った、驚きと喜び、心情の変化が伝わってきます。

真面目な空手ものかと思いきや、妻子ある主人公が浮気します。
武道と、浮気は無縁だと思ってましたが、これがストーリーの上で、ちょうどいい感じでアクセントになってました。
この辺、学生スポーツものとはちょっと違って大人っぽくていいですね。
浮気相手に会いたくても会えない、嫉妬やみじめさをサンドバックや練習に打ち込んで、そのことを考えないようにしている描写は、個人的には面白かったです。
武道を志していながら、再び作家を目指す決心までしながら、最後まで浮気相手のことが頭にある主人公ですが、秋葉先生の
「みっともないこだわりも含めて、いろんなものを抱えているのが人間ですから」
という言葉に、納得しました。
人間ってそれでいいんだと思います。